GLASS TABLEWARE
BY YOKO ANDERSSON YAMANO

インスピレーションは人の動きやささやかな日常の出来事から。
余白を残すことで、使い手に自由な解釈を委ねるものづくり。

“I’ve always admired work that values simplicity and function. Yoko Yamano’s glassware reflects these principles. Her pieces feel both delicate and grounded—made with a clear understanding of the material.”
– Margaret Howell


「シンプルさと機能性を重視するものに、私は常に魅力を感じてきました。Yoko Yamanoさんのガラス作品は、そうした価値観を体現しています。彼女の作品は、繊細さの中に凛とした佇まいを湛え、素材への深い理解をもって作られていることが伝わってきます」 
— マーガレット・ハウエル

「自分の作品は使い手にとっての“正解”を提供するものではなく、各々が自由に使ってもらえるような、そんなデザインを心がけています」。スウェーデンを拠点に活動するガラス作家の山野アンダーソン陽子さんは自身のものづくりについてこう話す。自らガラスを吹き、日々ものづくりに向き合う中で生まれたのは、使い手に手渡した段階で“委ねる”ということ。そこには作る側と使う側の信頼関係を築きたいという思いも宿している。

日常使いのグラスやボウル、フラワーベースやピッチャーなど、一般的に広く浸透しているテーブルウエアを中心としたガラスの数々。山野さんの作品の基本は、暮らしの中で使われることが大前提にある。ジャンルはカテゴライズされるが、手吹きによって一つひとつ作るからまったく同じものはない。かといって一点もののアートピースとも違う。さらに、用途はその限りではない。見た目はシンプルだが、自由闊達な創作と込められた思いから、使い方は自在で既成概念にとらわれなくていいと、手にした者はおおらかに開かれていく感覚を味わう。それが山野さんのものづくりの真骨頂だ。

そんな山野さんの新作のガラス作品が今年7月から、『マーガレット・ハウエル』神南店及び天神店、グラングリーン大阪、新宿ニューマン、松屋銀座にてローンチされる。実は、両者の付き合いはそれよりもずっと前から長く続いている。遡ること2012年、本国イギリスの『マーガレット・ハウエル』のスタッフが山野さんのドリンキンググラスを気に入り、その際にやりとりしたのが始まりだった。翌年にはロンドンのウィグモア店で取り扱いがスタートした。山野さんはそのときの印象をこう語る。

「いちばん最初に話をさせてもらったときから、ものづくりに対する並々ならぬスタイルを感じました。明確に欲しいものがあり、意志があり、妥協はないのですが、作家に無理をさせることはしない。強要もしない。それは今も同様で、だからこそ一緒にやらせてもらうことが光栄であり、楽しみでもあります。私のデザインはシンプルを追求しながら、少しずつアップデートしています。長く使えるものということは時間をかけないと証明されないので、自分の作品を置き続けてくれることで証明いただいているということなのかなと。私のものづくりは、マーガレットさんが手がける服づくりのアプローチとどこか似ているような気がして、自分の仕事を肯定してもらっている気持ちにもなり、励みになっています」

ガラスづくりにおいて、山野さんは日常の出来事や人の些細な行為や動きからインスピレーションを得るという。“人”からのインスピレーションを受けるという点もマーガレットと共通している。

「スウェーデン在住だからか、イメージで森や湖などの自然からインスピレーションを得ることが多いように思われがちなのですが、実はそんなことはなくて、私のデザインの基本はあくまでも“人”ありきなんです。だから、レストランで食事をしている人のグラスの持ち方、サーブする人の置き方、花を生けたり、お菓子を作ったりする人たちの手の動き、あるいは外を歩いている人たちの行動や服装、昔の写真などからもインスピレーションを受けます。それによって新しいアイデアを得ることが多いです」

人の行為から着想を得ることは、人間の暮らしを主役としたものづくりを追求していくことにつながるという。

「服もガラスも一緒だと思うんです。そこにものがあることで使い手の生きる時間が豊かなものになればいいなという思い。自分のものづくりが際立ちすぎないよう、余白を残すことを心がけているのは、何よりその人らしく、自由に使って欲しいから。ちょっと農家さんと似ているかもしれません。作った野菜を、できれば素材をちゃんと活かして料理してくれる人の手に渡ってほしいと思うけれど、もし料理ができなければ丸かじりしてくれればいいかなみたいな感覚です」

用途に合わせた決まりきったデザインよりも、手の大きさはみんな違っていてフィット感もそれぞれだから、ちょっとずつ違う形がたくさんあったほうがいいと山野さん。

「使い手が自ら選び、新たな解釈と発想で暮らしの中で活かしてくれると信じている気持ちがあるのかな。究極は言葉を尽くさなくても、手に取った瞬間に“感じて”もらえたらいいなと思っています。気づいたらそこにある、いつも生活のそばにあるような存在。そんなものづくりができたらと思っています」

GLASS TABLEWARE
BY YOKO ANDERSSON YAMANO
EXHIBITION

MARGARET HOWELL SHOP & CAFE
グラングリーン 大阪
7月1日(火)―13日(日)

MARGARET HOWELL SHOP & CAFE 天神
7月5日(土)―21日(月・祝)

MARGARET HOWELL 神南
7月10日(木)―8月7日(木)

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PHOTOGRAPHER:MASAHIRO SAMBE
WRITER:CHIZURU ATSUTA