「マクロガーゼを扱うとき、あなたはまったく異なる二人の人間になるのです。紙の上でデザインを考えるときは、美的感覚やプロポーションの感性などを使う“芸術家”です。しかし、実際にそれを織り上げるときには “技術者”になります。糸の張り具合が完全に正しいことを確認しなければならないのです。つまり、図案を描く芸術家としての役割を果たした後、それを可能な限り完璧に仕上げる技術者へと変わるのです。」
— ピーター・コリンウッド

ピーター・コリンウッド（1922–2008）は、世界的な織物作家として広く知られています。研究者であり、文化的・歴史的に価値の高い織物の蒐集家でもあり、その作品は世界中の様々な場所に収蔵されています。彼の革新的で優美なマクロガーゼのウォールハンギングは、彼の名高いキャリアの中でも重要な作品です。このコラムではこの秋、ロンドンのウィグモアストリートのショップにて行われたエキシビションの様子と合わせて彼の生涯についてご紹介します。

コリンウッドは赤十字の外科医としてヨルダンに滞在していた際、ベドウィンの織物を収集し、その構造や製法を理解するために研究を始めました。そして自ら織機を組み立て、独学で織りを習得しました。帰国後は、ディッチリングで著名な織物作家エセル・メイレットに師事し、続いてロンドンではバーバラ・ソーヤー、エディンバラ・ウィーバーズではアリステア・モートンのもとで経験を積みました。

1953年、コリンウッドはロンドンのアーチウェイに自身のスタジオを設立。そこで制作されたラグやその他の作品は、リバティ、ヒールズ、プリマヴェーラ・ギャラリーといった主要なデザインショップやギャラリーにて取り扱われました。彼の作品は、陶芸家ルーシー・リー、建築家フレデリック・ギバード、家具デザイナーのロビン・デイ、そしてアイソコンのジャック・プリチャードといった著名な人物たちから支持を集め、人気を高めていきました。

1958年、ハートフォードシャーにあるアーティスト向け共同住宅兼スタジオ「ディグスウェル・ハウス」での創作活動に招かれたことをきっかけに、ゴードン・ラッセルやシェル・タワー、ニュージーランド・ハウスといったモダンな建築のインテリア向けに大規模な制作依頼を受けるようになりました。

1962年、アメリカで講義を行うよう招待されたことを機に、国際的な評価が高まり、以後毎年のように渡米して講義を行うようになります。それに伴い、海外での作品需要も増加しました。1968 年には『The Techniques of Rug Weaving（ラグ織りの技法）』を出版し、以後絶版になることなく版を重ね、「手織り職人のバイブル」として知られる存在となりました。コリンウッドは「シャフト・スイッチング」「スプラング」「プライ・スプリッティング」といった技法の先駆者でもありました。
彼自身が語っているように——「私の織りのすべては、新しい技法を見つけ、それを探求することにかかっているのです。」

コリンウッドによるマクロガーゼのウォールハンギング作品は、生産の効率性とデザインの優雅さを融合させたものでした。それは、縦糸と横糸が直交するという伝統的な織りの概念から大胆に逸脱し、縦糸が垂直方向から角度をつけて動き、交差し、分かれ、ねじれ、再び融合するという新たな発想を取り入れたものです。彼は特別に設計した織機と複数のリジッド・へドル(綜絖)を用いて、構造と幾何学的な形態を強調する、まったく新しい「織りの言語」を生み出しました。

マクロガーゼの構造は、モジュール化やスケールの調整に適していました。織機の幅には制約があったものの、コリンウッドは一つひとつの長さを個別に設計し、連作として展示できる特注デザインを生み出しました。また、建築家やインテリアデザイナーからの依頼により、銀行、大使館、公共施設、個人住宅など、世界各地の空間のために一点物の作品を制作しました。

30年の歳月をかけ、コリンウッドは 250点を超えるマクロガーゼのウォールハンギング作品を制作し、彼の構築的で複雑な技法は、織りの技術的限界を新たな領域へと押し広げました。
彼の永続的な制作活動は、これらの卓越した技術的作品にとどまらず、より広範な織物の発展への貢献、そして執筆と教育への情熱にも見出されます。
彼のキャリアは、伝統的なクラフトとモダニズム的革新の架け橋であり、マクロガーゼのウォールハンギング作品は、テキスタイル史における比類のない功績として今も輝き続けています。それは、デザインの優雅さ、構造、そして創造への飽くなき探求心に突き動かされた精神の証といえます。

コリンウッドによるマクロガーゼのウォールハンギングコレクションからマーガレット・ハウエルが12品セレクトし、2026年カレンダーの内容として収録されています。

販売開始日 2025年11月17日(月)より販売開始
販売店舗 神南・グラングリーン大阪・天神・仙台エスパル 高輪・横浜ニュウマン・新宿ニュウマン・mix.tokyoショップページ

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ロンドンでのエキシビションおよびこのカレンダーは、個人コレクターの方々、クラフツ・カウンシル、CUA芸術大学クラフツ・スタディ・センターの多大なご支援ご協力により実現しました。ジェイソン・コリンウッド氏、レイチェル・コリンウッド氏にも感謝の意を表します。