EDWIN FOR MARGARET HOWELL 20TH ANNIVERSARY

マーガレット・ハウエルにとって、ものづくりを支えてくれるファクトリーの存在は極めて重要です。ウェルメイド(つくりが良いもの)を作りたいという一貫した考えのもと、マーガレット・ハウエルは長年にわたりイギリス国内外の素晴らしいファクトリーと関係を深めてきました。自然界からのマテリアルと伝統的なファブリックの供給や、現代の暮らしに実用的なデザインを可能にする確かな技術の積み重ね。“ファクトリー”とは規模の大小を問わず常に創造的な場所なのです。

2023年はマーガレット・ハウエルが日本のジーンズメーカーを代表するEDWINとものづくりを始めてから20周年を迎えます。本記事ではその重厚な歩みを「ファブリック&デザイン」「タイムレス」「パートナーシップ」という3つの視点から振り返り、両者のものづくりへの想いがどのように交わってきたのかを紹介します。

FABRIC AND DESIGN

— Q デニム生地の特徴のひとつに“インディゴ”というカラーがあると思いますが、マーガレット・ハウエルとEDWINにおいて“インディゴ”はどのような意味を持つのでしょうか。

マーガレット・ハウエル (以下MH) 私たちにとってインディゴというカラーはいつもジーンズと隣り合わせにあるクラシックな存在です。またジーンズに限らずデニム生地で作られたウエアは着るほどに経年変化によってカラーの表情が変化し、最終的にはその人の“らしさ”になりますよね。着用者によって、それぞれ個別の“らしさ”になっていくというのはとてもユニークな性質だと思います。

EDWIN小林正和氏 (以下 小林) “インディゴ”のカラーには無限に近いような色の階調があります。たとえばそれを“青”として表現した場合、赤味の青があったり、茶っぽい青や黒っぽい青があったりというふうに “インディゴブルー”と言ってもちょっとずつ違います。そういった奥深さに触れながらマーガレット・ハウエルのデニム生地は、コレクションのシーズンカラーに合わせて毎回少しずつ変えて作っているんですよ。
一緒にものづくりをしていておもしろいなと思うのは、デニム生地を作るときに僕たちはひとつの“ファブリックとしてのインディゴブルー”にフォーカスして作るわけですけど、のちに開かれる展示会場に行くと、そのデニム生地で作ったアイテムが他のさまざまな素材とデザインのコレクション全体に組み込まれて、みごとに調和の取れた世界観ができているんです。これは毎回驚かされる瞬間ですね。

— Q SPRING SUMMER 2023 ではコラボレーション20周年として、新しいスタイルやアーカイヴからのアップデートなどさまざまなアイテムが登場しています。これまでに制作してきた中で特に思い入れの深いものはありますか?

小林 “素の姿”っていうのでしょうか。マーガレット・ハウエルとEDWINのデニムウエアは基本的にハードな洗いをかけないので、その辺にこだわりを感じるのですが、中でも特徴的なのは2010SSシーズンに作った「グレイキャストデニム」のシリーズです。 現在はもうそのデニム生地を作れるミル(紡績工場)が無くなってしまったので、今ある分を使い切ると終わってしまうのですが、僕としては10年以上ブランドの一部として貢献してくれた「グレイキャストデニム」には非常に思い入れがあります。

MH 私たちのブランドとしてはポケットやリジットなど、ジーンズにもともと備わっているディテールが機能することを大切に考えています。自分たちが創り出したものではなくて、本来備わっている機能をどう見せるか。リアリティとして在るべきディテールがしっかり在るということが、私たちらしさだと思います。そういった意味でもEDWINと一緒に作ってきたウエアはどれも気に入っていますよ。

TIMELESS

—Q デニム生地を用いたウエアは1850年代のアメリカでワークウエアとして誕生し、現在も子供から大人まですべての世代に親しまれています。その長い歴史的な背景にはどのような要因があると思いますか?

小林 そもそもジーンズは“安くて丈夫”というワークウエアとしてスタートしていますが、そこからファッションやライフスタイルへ移行していく間には、異なる国や文化に馴染むための、いろんな変化がないとこれほど普及しなかったんじゃないかなと思います。
なぜそんなに変化に対応できたのかというと、日本にもともと「藍」という文化があったように、“ブルー”というカラーがどの国でも、悪い色じゃなかったというのもあるかもしれない。それに“ケアフリー”というのも大きいのかなと。本来がハードな用途に耐えるワークウエアですから、多少汚れても、経年変化しても気にならない。公園で地べたに座れるし、穴が開いてもしばらくは穿ける。そういう親しみやすさがあるんじゃないかなと思うんです。

MH 目的や機能のためにデザインされていて、よく作りこまれたものはおおよそ長持ちしますが、一方でジーンズなどのウエアのシルエットやレングスは時代に合わせてよく見ていないといけないと思います。社会の中ではライフスタイルや着用の仕方が変わっていきますから。
私たちも1970年代や1980年代に作っていたのは今よりもっとコンパクトでタイニーなシルエットでしたが、今ではリラックスしたオーバーサイズを作っているでしょう? そういうふうに時代に合わせていくことは必要です。それはジーンズに限らずいろんなところで起きていることだけど、フィーリングというのは変わっていくものですから。
また私はジーンズのようにクラシカルなウエアをモダナイズしていくのが好きなのですが、すでに完成された良さがあれば、本当は変える必要はないのかもしれません。もしクラシカルでオリジナルのジーンズを変え過ぎてしまったり、遊び過ぎてしまったりすると本来の目的から外れてしまうというか……。先ほども言ったように既にいいものなのだから、たくさん手を加える必要はなく、加減としてはオリジナルを大事にしながら、今の気分を少し加えてあげること。それぐらいでちょうどいいのだと思います。

—Q ここ数シーズンで“オーガニックコットンデニム”を用いたアイテムも登場していますが、やはり環境負荷を考えてということでしょうか。またそういった環境意識はそれぞれのものづくりにおいて他にどのような形で現れていますか?

MH サスティナビリティという観点からも、クオリティというのはとても大事です。クオリティに優れていて、ウェルメイドなウエアは長く着続けることができるので、たくさん生産する必要がありませんよね。良いものが最低限あるということは、そうじゃないものがたくさんあるよりもずっと豊かなことです。特にファッション産業はそういうところをしっかり考えないといけないですが、私はワンシーズンだけで着られなくなってしまうような服は作りたくないと思っています。そういった意味でもEDWINは自然環境へリスペクトしながらプロダクトのクオリティに力を注いで良い仕事をしてくれるので、とても満足しています。

小林 環境への取り組みはすぐにはできないことですよね。オーガニックコットンも無農薬栽培を何年も続けてやっとですし、継続することにすごく意味があると思います。
EDWINでは20年以上前から捨てずに繰り返し使えるカーゴを使った物流輸送にしていたり、クリーニング工場は“使用前よりも使用後の方がきれいに”というポリシーで排水設備を備えています。最終的には淡水魚が住めるような水質にまで戻して処理しているんですよ。
更にはオゾン脱色機やジェット染色機の導入や、工場の熱源のボイラーをガスに変えてCO2の排出量を削減したり。それらは期間の長短を問わず必要な工程と設備なので、環境負荷への問題意識は会社として、工場としてどうあるべきかを考えてやっています。
それに実はジーンズにはもともと生産効率を重んじる由来があるんですよ。先ほど“ワークウエアから始まった”と言いましたが、ワークウエアは基本的に高価にできないじゃないですか。だからいかにコスト低く抑えるかという話になってくる。そしてコストを抑えるためには、効率をすごく追い求めないといけないんですよね。
ひとつ例を挙げれば、なぜジーンズは「耳=セルビッジ」使いをしているのかというと、生地を耳まで全部使うためです。生産効率を重んじる=捨てるものを少なくするのが特徴なんですよね。

PARTNERSHIP

—Q お互いのものづくりについてどういう印象を持っていますか?

MH いつもウェルメイドなプロダクトでとてもいいパートナーシップだと思っています。EDWINのようなファクトリーが私たちと一緒に挑戦をしてくれることはとても大事で素晴らしいことですが、同時にEDWINにとっても私たちが正しいパートナーでいなければいけません。
正しいコンビネーションを得るためには両者の間にエンパシー(=共感)が通っていることが必要です。私たちは道を外したことは言わずファクトリー側もまた無理をしない。お互いできる範囲でものづくりの関係が噛み合っていることが大切です。

小林 すごく真摯に「EDWINとMARGARET HOWELLはどうあるべきか」を考えながら取り組んできました。そのために“目に見えるものづくり”というか、すべてをオープンにして、すべてを共有しながら作っています。自分たちの弱さをお見せして、強みも分かっていただいて。
見た目を変えることってある意味簡単だと思うのですが、そういう根底の部分をしっかり持っていないとマーガレット・ハウエルとは一緒にものづくりできないんじゃないかと思っています。

—Q 広く国内外に目を向けても、同じパートナーと20年にわたってコラボレーションを続けているというのは稀なケースだと思いますが、この20年を振り返ってみてどんなことが思い浮かびますか。

MH 長く続くには双方が正しい仕事をしている必要があると思います。私たちは無理なことを頼んではいけないし、奇抜なデザインを作っているわけではないですよね。そんな私たちと正しいマッチングだから、日本でもUKでもEDWINとのコラボレーションは成功し続けているのだと思います。

小林 20年……。文化の違いをどう融合させるかの歴史でしたね。テーラリングとワークウエアは生まれた背景が異なるので、ミシンも違えばパーツを合わせる順番や縫い方も違ったりするのをどう融合させていくか。EDWINの工場で作る以上は僕たちの考え方や文化を知っていただく必要もありましたが、このお互いの文化の違いに真剣に取り組んできたからこそこれだけ長く続いているんじゃないのかなって思います。

—Q これからもこのコラボレーションを楽しみにしています。もし今後やってみたいことがあれば教えてください。

小林 デニムウエアの可能性が広がるようなことをやってみたいです。たとえばMARGARET HOWELLとEDWINのコラボレーションに第3者が加わったり、アパレルのマーケットを越えた広がり方とか、着用されるシーンのアイデアでもおもしろいでしょう。これまでの世界観がより広がるようなことっていうのは、具体的じゃないですけどやってみたいなぁと。

MH 私は更にもう20年、この関係が続いたらいいと思います。その中でいつか“デニムドレス”も作ってみたいですね。

 

 

CAMERA : NORIO KIDERA (FILM/FACTORY) / JUN YASUI (MODEL)
EDITING : HIRONORI+ITABASHI
TEXT : SOYA OIKAWA

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