マーガレット・ハウエルの、変わらない物作りの姿勢に共感する。

ブランド創立から50周年を迎えた今年、LIFE NOTESがオーディオコンテンツをプラスし、再始動。LIFE NOTESセカンドシーズンでは、ブランドと縁のある方々をお招きし、出会いのエピソードや思い出のアイテムなどについて語っていただきます。今回は様々なファッションブランドのアートワークや、数多くの広告ビジュアルを手掛けているアートディレクターの平林奈緒美さんをゲストにお迎えしてお送りします。インタビュー時の生の声も、ぜひ併せてお楽しみください。

平林さんがマーガレット・ハウエルを知ったきっかけは何だったのでしょうか。

マーガレット・ハウエルがまだ西麻布の〈アングローバルショップ〉で売られていた頃なので、もう20年以上前になるでしょうか。その頃、私は軍パンに白いシャツ、そして黒いブーツという決まった服ばかりを着ていました。買い物をするといっても、白いシャツと軍パンを買い足すくらい。きっかけは「いい白シャツはないかな」と探していたときに、仕事で一緒になったスタイリストさんにマーガレット・ハウエルのシャツをすすめられたこと。そうして購入した白いシャツがマーガレット・ハウエルでの最初の買い物になりました。

実際にマーガレット・ハウエルの白いシャツを手に取ってみていかがでしたか。

まだ就職したばかりの私にとっては、けっこう高価なシャツだったと思います。でも絶妙な丈の長さやコットンの白の色がすごく気に入って、かなりの頻度で着ていましたね。軍パンと合わせる当時の私のスタイルにもすごく合っていた。同じものを何回か買い換えたほどです。

イギリス好きを公言している平林さんから見て、イギリス発のマーガレット・ハウエルのプロダクトの魅力はどんなところでしょうか。

プロダクトに限らず服も、いい意味で“色気がない” というところですかね。男の人の着るスーツにしても、イタリアやフランスのものよりも、イギリスのスーツの仕立ての方が好き。イタリアのスーツは着る人の体に馴染むのですが、イギリスのスーツはわりと型が決まっている。イギリスの製品からは、“着る方がスーツに合わせなきゃいけない” といった融通の効かなさが感じられて、そういうところがすごく好きです。

元々イギリスのデザインがお好きだったのですか?

私が美大に入る前後に見ていたデザインが、ドイツやイギリスのものばかりだったんです。中でもイギリスのレコードジャケットのデザインがすごくいいなと思っていて、そこから特に興味を持つようになりました。その後、ロンドンのデザインスタジオ「MadeThought」で1年働いた経験もあり、イギリスとは何かと縁がありますね。

次に平林さんの物選びの基準についてお伺いします。ご自身で決めている買い物のルールはありますか。

特に決めていることはありません。ですが身の回りにデザインされたものが溢れていると疲れてしまうタイプ。洋服でもプロダクトでも、無意識にデザインと機能が結びついているものを選んでいます。あとは、「使ってみないと良いのかどうかわからない」ということが根底にあると思います。買う前に情報を仕入れて、評判だったり誰かのコメントやおすすめだったりを指針にして買い物をするということはあんまりないです。ずっと前に、私が尊敬していて仲の良いスタイリストの方に、コート2着、どっちが良いか決めかねて相談したら、『貯金があるなら両方買え。そうしたら、どっちが良いかわかるから』言われて。確かにそうだな、と。もちろん貯金があるときに限った話だし、金額にもよります。「どちらかしか選べない時はどうするのか」と聞かれることもありますが、両方買えない時はどちらも買わないかも。

本日お召しになっているニットもマーガレット・ハウエルのものということで、お気に入りのポイントや購入に至った経緯などを教えてください。

これは実は自分で選んだものではないんです。母へのプレゼントを選びに神南のお店に行ったときに、店頭には並んでいなかったものをお店の方が裏から持ってきてくれたもの。すごくいいし、お似合いだと思うからと、とても熱心にすすめてくれたので、そこそこのお値段だったのですが、勢いに負けてグレーを購入しました。タートルや腕の部分がゆるっとしている感じ、ネックの長さ、袖が少し長いところがとても気に入っています。購入した年は本当にこればかり着ましたし、次の年からは色違いが出る度に買うくらい、好きなアイテムになりました。

古くなった服はどうされていますか?

古いものもけっこう持っていますよ。服はもう、制服みたいな感じになっていて、基本的に同じ格好しかしていないので。買い物もいろんなものは欲しくはなくて、自分が気に入って持っている物に似ていれば似ているほど購入してしまいます。気に入っているものは予備を持っていたいので、×3というような買い方ですし。基本は今日着ているようなタートルのニットの白か黒かグレーに短めのパンツ、という格好ばかりしてしまいます。

ちなみに今お召しになっているニット、着心地や素材感はどうですか。

カシミヤということもありすごく暖かくて着心地もいいです。実は、普段はあまり着心地は気にしないんですが、こればかりを気に入って着ているということは、それだけ自分に馴染んでいるっていうことですね。

その他にもマーガレット・ハウエルのアイテムで思い入れのあるアイテムはありますか。

このチェックとアイボリーのガウンは、色違いで持っているほど好きなアイテムです。10年以上前に出たチェックの方を気に入って自分で買ったのですが、その4年後ぐらいに同じ型のアイボリーが出たんです。すごく欲しかったのですが、このボリュームのガウンを2着というのも、と思って諦めていたら、旦那さんがプレゼントしてくれました。今ではアイボリーの方を私が、チェックの方を旦那さんが着ています。同じデザインのものが廃れずに数年後も買えるというのは、マーガレット・ハウエルの大きな魅力だと思います。メンズのアイテムを女の人が着ても、ウィメンズのアイテムを男性が着ていても、サイズ感が間違っていなければおかしくならないというのも魅力だと思います。

ここ最近はニューノーマルという言葉が話題ですが、平林さんの生活の中では何か変化はありましたか。

元々外食に頻繁に行く方ではなく、打ち合わせも最小限というように極力人に会わない生活をしていたので、基本的なことは何も変わっていないです。ですが20 年以上仕事ばかりしていた私にとって、丸1日家にいるということ自体が、ほぼ初めての経験で。それが意外に楽しかったので、緊急事態宣言の期間が終わっても土日は極力休むようになったんです。当たり前のことですが、私にとってはそれが私の大きな変化ですかね。オフの日は作り慣れないために、全力投球してしまう食事を3食分作るだけで1日が終わってしまうことがほとんどなんですけれど。

「物を大事にして長く使いたい」というマーガレットさんと、物を捨てないで大切にする印象がある平林さんとの間には、共通点があるように感じます。平林さんは“サステイナビリティ”について何か考えていますか。

最近“サステイナビリティ”という言葉をよく耳にしますが、私的には今取り立てて新しく思っていることはないですね。年齢的なこともあるのかもしれませんが、自分が子供の頃は「物を大事に使う」とか、「全部使う」、「余った物をうまく使う」ということは当たり前だったし。基本的に少し前まではそれで生活が成り立っていたものを、“サステイナビリティ”と言って妙な価値をつけちゃっただけのような気がします。

自分を持っている印象がある平林さんからみて、同じく自分を持っていて影響力のあるマーガレットさんはどのような印象なのでしょうか。

自分が好きなものや自分にとっていいものをちゃんと分かって持っているところが好きですし、共感できます。「マーガレット・ハウエルの服は着心地がいい」と言われて、なんとなく柔らかなイメージですが、ワークやミリタリーのエッセンスが服作りの背景にあって、そこをうまく彼女なりに解釈してアウトプットしていますよね。ワークやミリタリーは他のデザイナーもこぞってネタにするけれど、どう理解してどの部分を見ているかでアウトプットは全く変わってくると思います。マーガレットの服には一見するとミリタリーっぽさはないけれど、服から伝わる“彼女がどこをみてどのエッセンスを抽出したか”というところが、私の感覚と近い気がしているんです。それが多分、私がマーガレット・ハウエルを好きな理由なんじゃないかなと思っています。

やはり共通点が多いんですね。では最後にマーガレット・ハウエルのお洋服、それからマーガレット・ハウエルご自身も含めて魅力を一言お願いします。

服は俄然メンズの方が好きなのですが、メンズとレディースが分かれているブランドは、同じデザインでもレディースウエアへのアレンジの仕方に納得がいかないことが多いんです。けれどマーガレット・ハウエルはメンズとレディースに分かれていながら、それぞれ体の作りに合わせて最低限のところだけを変えるアレンジになっていて、デザインのエッセンス的なところは全然変えていない。だから夫婦で同じ物を大小で買うことも多いし、先ほどお見せしたガウンも、身長差がけっこうあっても共有出来る。そういうところがとても好きです。

PROFILE

平林奈緒美・ひらばやしなおみ/アートディレクター

東京都生まれ。武蔵野美術大学空間演出デザイン学科卒業後、資生堂宣伝制作部に入社。2002年にロンドンのデザインスタジオ「MadeThought」に1年間出向後、2004年12月に資生堂を退社。2005年よりフリーランスのアートディレクター、グラフィックデザイナーとして活動開始。広告のアートディレクションや様々なブランドのロゴデザインなど、幅広い分野で活躍している。

PHOTO: TETSUYA ITO
EDIT: YU_KA MATSUMOTO
TEXT: RIO HIRAI
SOUND ENGINEER: SHINSUKE YAMAMOTO