花とマーガレット・ハウエルのアイテムから考える、豊かな暮らし。

マーガレット・ハウエルは、ブランド創立から50周年。これを祝して、以前好評だったLIFE NOTESにオーディオコンテンツがプラスされ、新たにスタート。LIFE NOTESセカンドシーズンでは、ブランドと縁のある方々をお招きし、出会いのエピソードや思い出のアイテムなどについて語っていただきます。今回のゲストは、都内に「Forager」というフラワーショップを2店舗経営し、マーガレット・ハウエルの神南店を始め、アパレル関連の装花なども手掛け、“チーコさん”の愛称で親しまれるフローリストの上野智枝子さんをお迎えしてお送りします。インタビュー時の生の声もお楽しみください。

チーコさんと、ブランドとの出会いをお聞かせください。

服よりも神南のカフェとの出会いが先なんです。紅茶が好きな母と、ゆったりした空間でおいしい紅茶が飲める神南店のカフェをよく利用していました。お正月も早々から営業されていたので、よく年始から行っていたのを思い出します。ウッドの大きなテーブル席が気持ち良いんですよね。学生の時は、贅沢で服にはなかなか手が出なかったので、紅茶とスコーンを楽しんでいました。その後、近所の花屋に勤めていた頃、その当時は神南店のテラスにお花屋さんが入っていたので、休憩時間にランチを食べがてら花を見にいくということをよくやっていたんですよ。

ではブランドの服を着るようになったのはいつ頃なのでしょうか。

大切なセレモニーのような機会がある度にお店を覗きに行っていました。学生時代にはなかなかカジュアルには取り入れられなかったけれど、MHL.には親近感を感じていて、その後、花屋として働き始めた頃も仕事着としてもよく着ていましたね。

今では月2回、マーガレット・ハウエルの神南店とカフェで生け込みをされているそうですね。前回このLIFE NOTESにもご登場いただいた『LIFE son』の相場正一郎さんが、そのきっかけだったとお聞きしています。

以前、『LIFE son』で月に1回モーニングマーケットをやっていたんです。はじめ私は花屋としてではなく、野菜やフルーツを出品していた別の店の手伝いとして参加していて、その時に相場さんにお会いしました。『LIFE son』では友人が働いていたこともあって、自然な出会いでしたね。その後、花屋として出店させてもらうことになったんです。そんなご縁があり、相場さんにマーガレット・ハウエルを紹介してもらって、神南店とカフェの生け込みをやらせてもらうことになったんです。

フローリストとしてマーガレット・ハウエルに関わることが決まった時はどんな心境でしたか?

もともとプライベートでカフェに通って、花を見に行っていたくらいですから、自分が生け込みをやらせてもらうことになったときはとっても嬉しかったですね。私が通っていたときに、カフェで働いていたスタッフの方もまだ働いていたりして、ご縁ですね。神南店は日本のマーガレット・ハウエルを代表するお店だと思うんですけれど、お店の方もとても温かくて、生け込みに行くのがいつも楽しみです。スタッフの方々もお花にも興味を持ってくださっていて、行く度に「今日はどんなお花?」とお話ができるのが私にとっても良いリフレッシュになっています。何年、生け込みに通っても楽しみな気持ちが消えないですね。

神南店で生け込みするときに意識していることはありますか。

最初の打ち合わせの時点で、ロンドンのお店の様子なども見せていただきました。自分なりにそれを参考にして生けていたら、「選ぶ花は間違ってないけれど、もう少しリラックスして生けてほしい」とアドバイスをいただいて、自分が緊張していたことに気がついたんです。それからは、「きちんとしているけれど肩の力が抜けている」というのを意識するようにしています。シンプルだけど、退屈しないっていうのかな……。あまりフローラル過ぎないようにすることも大切です。花が入ってなくても、入っているくらい目を引く装花が可能だというのは、神南店の生け込みを通して実感したことですね。花がなくても、葉っぱと実物と稲穂だけでも成立するんです。様々な質感や色を感じられるのは、自分で花を扱っていて楽しいところのひとつですね。

ブランドのフィロソフィーにも繋がることなのかもしれないですね。イギリスの造園家であるデレク・ジャーマンがお好きだそうですね。同じくマーガレットさんもイギリス出身ですが、そんな2人の暮らしから参考にしていることはありますか。

2人とも「ある人からしたらあまり価値がないものでも、自分にとって良いものであれば大切にする」という、自分の世界観や審美眼がはっきりしていると思うんですね。華美な物ではなく、転がっている石や木に美しさを感じる部分は、自分にも共通しています。東京の狭い家でもちょっとお花を飾って、拾ってきた石を添えてみたり。お店でも拾ってきた枝とか、石をディスプレイしているところにも繋がっています。その物自体にプリミティブな魅力があるのと、拾ってきたときのストーリーが自分の中にだけあるところにも惹かれます。背景にあるストーリーは大切ですね。静かな気持ちで花を生けると、生けた花自体がその空気をずっと纏っていたりするんですよ。逆に賑やかな気持ちで生けると、花がスウィングしているというか、楽しげな様子が花に宿ると思っています。

本日お召しになっている洋服もマーガレット・ハウエルのものですね。

そうです。マーガレット・ハウエルのお店でお客さんの前で花を生けるデモンストレーションをするという機会があって、その時お店で選んだものです。このシャツは、襟の立ち上がりがちょっと変わっていて素敵なんですよね。あとはこの黄色ともクリーム色とも言えない絶妙な色合いに惹かれました。強い色よりも淡い色の方が花も引き立ちそうだなと思ったんです。このシャツは、大切に着ていきたいと思っている一枚です。シャツに合わせて選んだパンツは、ワイドなシルエットが動きやすくってよく穿いています。夏でもけっこう涼しいんですよ。

その他にも、マーガレット・ハウエルで思い入れのあるアイテムはありますか?

このジャケットは、下北沢店ができたときに購入したものです。打ち合わせに出かけるときなどには自分に気合を入れたくて、気持ちを切り替えるジャケットがほしいなと思ったんです。私はあまり重々しいものだと着なくなってしまうので、肩肘張らずに着られるものを探していて、このジャケットと出会いました。あとは襟元が水玉になっているシャツ。これは神南の店で生け込みしていながら、ずっと気になっていて、思わず買ってしまいました。全部水玉だとあまり似合わないのですが、襟元にだけあしらわれているのが良いなと思ったのと、ブルーの色がとても綺麗で、ここのお店のように薄暗い空間でも明るく見えるのがポイントです。

洋服以外でも、お店にはマーガレット・ハウエルのアイテムが置いてあるそうですね。

そうなんです、このアーコールの椅子も、マーガレット・ハウエルで買ったもの。ジャケットと同じく、下北沢店を作ったときに買いました。あちらはすごく狭い場所なので、背もたれがない椅子が欲しかったのと、あと座面が安定しているところもいいですね。気に入っているあまり、西原店に持ってきてしまったので、下北沢の方は、今は椅子なしで働いています。圧迫感がないのがポイントかな。あと西原のこのお店には、アンクルポイズのライトも置いています。空間への馴染みが良いのと威圧感がないのが自分好みなんです。

小さいながらもファンが多いお店ですよね。時代も変わりつつあるなかで、花のある暮らしの大切さに人々が気づいたということもあったのではないでしょうか。

これまでも私は、「自分の気持ちに素直になって花を選んでみませんか」ということを提案してきました。最近はご自宅で過ごす時間が増えた方々が、自宅用に花を選ぶという機会が増えてお店にもたくさんご来店いただいています。私が今までやってきたことを理解してもらえたのかなという感じがしていて嬉しいですね。あと、観葉植物をお求めになるお客様がすごく多いのは意外でした。お店では、比較的育てやすいもの、あとはルックスがキャッチーなものを選んでいます。鉢選びが難しいのですが、なるべくニュートラルなデザインで、部屋にあっても悪目立ちしないものを選ぶように意識しています。

花もマーガレット・ハウエルのアイテムも、生活を豊かにする物だと思うのですが、服についてもあり方が変わってきている時代です。チーコさんは、「服を着る」、「着飾る」、ということについてどういうお考えをお持ちでしょうか。

やっぱり気持ちを高めるために、気に入ったものを購入したいですよね。必要なときに、欲しいものがあるお店は、頼もしいなと思います。お友達と会う機会も減っているので、そのような貴重な機会には仕事のあとに一度家に帰って、お気に入りの服に着替えてから出かけたいなと思います。

最後に、マーガレット・ハウエルの魅力について一言いただけますか。

同じ花でも、若い時と歳を重ねてから見るのとでは、感じることが違うということがあると思うんです。服にも同じ感覚を持っていて、「この服はおばあさんになって袖を通してみたらどういう感覚なんだろう?」という楽しみがありますね。マーガレット・ハウエルの服は、そんな風に長く愛したい服です。知らず知らずのうちに身近にあって、自分がちゃんと似合うと思えるときに購入して、歳をとってからも違う印象になるのを楽しみたい、そんな付き合いができる服だと思います。

PROFILE

上野智枝子・うえのちえこ/フローリスト

8年ほど勤めた花屋の会社を辞めて、2009年よりフリースタイルの花屋chi-koとして活動を始める。2012年、シェアスタジオを開設。様々な案で花の販売を続けながら、生け込み、撮影やスタイリングなど多数の依頼を受ける。2015年、下北沢の小屋で花屋『Forager』(東京都世田谷区代田5-1-16)を開店。2018年に西原店(東京都渋谷区西原2丁目26−5 パールマンション101)をオープンさせる。

PHOTO: TETSUYA ITO
EDIT: YU_KA MATSUMOTO
TEXT: RIO HIRAI
SOUND ENGINEER: SHINSUKE YAMAMOTO