アングルポイズのある空間

「私は、人生の殆どをアングルポイズと共に歩んできたと思います。幼いころはブラックで正方形の台座のアングルポイズの明かりの下で学校の宿題に取り組み、その後は60年代・70年代にデザインされた様々なカラーのランプを手にしました。アングルポイズは家の中でもオフィスでも、インテリアとしてアクセントとなり、空間を演出するでしょう。」

─ マーガレット・ハウエル

写真家・平野太呂さんがゲストとトークを繰り広げる連載「LIFE NOTES」。ゲストと共にマーガレット・ハウエルにまつわるテーマについて考えます。第9回目のテーマは「アングルポイズ」。以前よりアングルポイズのファンだという建築家の谷尻誠さんが、その魅力について語ってくれました。

平野太呂(以下H):谷尻さん、お久しぶりですね。前にご一緒したのは、広島のオフィスで展示をやらせてもらったときですかね。若木信吾さんと一緒に、サポーズデザインオフィスが主催する「THINK」というイベントのゲストに呼んでもらって。
谷尻誠(以下T):そうですね。昼間にお二人に広島の街を撮って頂いて、夕方には出力するっていう即興の展示をしてもらいましたね。あのイベントはおかげさまでとっても良いものになりました。今でもあのときの作品は大事にとってありますよ。
H:楽しかったですね。6年前くらいですね。
T:またやってくださいよ! 来年広島に新しくオフィスビルを建てる予定なんです。今のこの場所(サポーズのオフィスと併設する飲食スペース「社食堂」)に、宿泊施設とギャラリーがつく形態を予定しています。
H:いいですね!市内ですか?
T:市内です。原爆ドームまで歩いて2分くらいの距離で、良い場所ですよ。出来上がったらぜひまた遊びにきてください。
H:あのお好み焼き屋にまた行きたいです。美味しかったな。今回は、この企画で逆に協力いただきました。マーガレット・ハウエルはどういうイメージですか?
T:マーガレット・ハウエルは、良質でベーシックなイメージ。ベーシックなものを着て自分の色が出せる人って素敵だと思います。
H:確かに、僕も谷尻さんが言うようにマーガレット・ハウエルを素敵に着ている人はかっこいいなって思いますね。今回はマーガレット自身が幼いころから親しみがあり、スペシャルカラーを作っている「アングルポイズ」がテーマです。私物で持っていると聞きましたが。
T:そうなんですよ。静岡の「52」というセレクトショップの設計をしたのですが、そこでマーガレット・ハウエルを扱っていたんです。お店を訪れたときに展示してあったアンクルポイズが素敵だったので、購入しました。それがすごく良かったので、海外に行った時に黒いものをもう一つ追加したんです。
H:よほど気に入ったんですね!なぜ、新たにこのカラーを選んだんですか?
T: 家にグレーと黒があるので、3つ目にはブルーがいいなと思ったんです。僕にとっては、「困った時のブルー」という感じです。空間を作る時に、色を使うのが下手なんですよ。場所に色のイメージがついてしまうので、いつも避けてしまうんです。でもブルーはどこに差し込んでも合うんですよね。ブルージーンズがどんなファッションにも合うことと同じでしょうか。
H:今日はオフィスでの撮影でしたけれど、黒のアングルポイズもありましたね。
T:あれは、オフィスをシェアしている若木信吾さんのものですね。僕は、オフィスで自分の席を決めていないんですよ。決まった僕の席にスタッフが報告に来るのではなく、僕がスタッフの方に話を聞きに行く方がコミュニケーションとしてスムーズなことが多くて、いつのまにかそうなりました。自分のアングルポイズを置いたその場所がワークプレイスになるというのも、良いスイッチの切り替えになって良いんです。
H:そんなに重いものでもないから、簡単に動かせますからね。そういうスタイルも良いですね!

T:アングルポイズは、本当にデザインがすごく良いですよね。自分がインテリアを選ぶ空間でもよく使っています。今年2月に渋谷にオープンした「hotel koé tokyo」では、クリエイティブディレクション・設計・インテリアデザインを担当したのですが、そこでもアングルポイズを採用しています。
H:機能に伴ったデザインが素晴らしいですよね。実際に触ってみると、この照明が何十年も愛されている理由がわかる気がします。
T:値段もそんなに高くないところもポイントですよね。インダストリアルっぽい質感もあるし、でもちゃんとモダン。空間に寄り添ってくれるところが好きです。オフィスにも合うし、ベッドサイドやダイニングテーブルの上でも映えます。
H:こういうものってなかなか買い換えなくて長い付き合いになるから、何を購入するか結構考えてしまうんですよね。邪魔にならないかな、使わなくならないかなって。アングルポイズは家の中で大げさになっちゃうかなって思ったりもしたけれど、こうやって実際に置いてあるところを見ると、場所もとらないし、空間によく馴染むんだなって思いました。
T:よく考えられてますよね。このバネとか……。自分では絶対に作れない自信があります。
H:そうなんですか? 例えば、どういうところが?
T:自分でデザインするときには、つい線を減らす方向で考えてしまうんですよ。いつもミニマムに寄せる癖があるので、これだけ線が多いものは自分では扱いきれないから、このデザインは絶対に僕は生み出せない。自分では作れないものだから、買ってでも手に入れるんです。「自分で作れそうだな」と思うものは買わないですね。ものを作る職業なのに、既製品ばかりってちょっとダサいじゃないですか。
H:マーガレット・ハウエルもそういう考えらしいですね。ライフスタイルとしてインテリアまで提案したいけれど、自分が作れるものではないから、カスタマイズしてスペシャルオーダーしたりするという。
T:作れなくて仕方ないから買う、っていう少し悔しい感じです。でもそうやって嫉妬するものに出会えるのは幸せなことだと思うんです。それは建築やインテリアに限ったことではなくて、いろいろなものにできるだけ嫉妬したい。
H:それはわかります!
T:自分には予測できないもの、作れないものとたくさん出会いたいんです。
H:知っている範囲のものだけしか周りにないと、前に進めない感じがありますよ。自分に当てはめて考えてみましたが、写真集を買うか買わないかって考えるときに、「これは僕にでも撮れるな」とか「撮ったことあるな」というものはあえて買わないですからね。自分には撮れないと思ったり、自分より先にいってるな、というものには嫉妬して、欲しくなる。
T:そうですね、アングルポイズは僕にとってそういう存在ですね。

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INTERVIEWER

平野太呂 写真家

Taro Hirano / Photographer

1973年、東京都生まれ。武蔵野美術大学映像学科卒。2000年よりフリーランスとして活動を開始。スケートボードカルチャーを基盤にしながらも、カルチャー誌やファッション誌、広告などで活動中。主な著書に『POOL』(リトルモア)『ばらばら』(星野源と共著/リトルモア)『東京の仕事場』(マガジンハウス)、フォトエッセイ『ボクと先輩』(晶文社)、『Los Angeles Car Club』(私家版)、『The Kings』(ELVIS PRESS)がある。渋谷区上原にて2004年からNO.12 GALLERYを主宰。

GUEST

谷尻 誠 建築家

Makoto Tanijiri/Architect

1974年、広島県生まれ。穴吹デザイン専門学校卒業後、本兼建築設計事務所、HAL建築工房を経て2000年SUPPOSE DESIGN OFFICE設立。2014より吉田愛と共同主宰。広島・東京の2ヵ所を拠点とし、インテリア、住宅、複合施設など国内外で多数のプロジェクトを手掛ける一方、大阪芸術大学などで教壇に立つ。最近では東京事務所に飲食業態「社食堂」や不動産屋「絶景不動産」を開業するなど活動の幅も広がっている。2017年には作品集「SUPPOSE DESIGN OFFICE-Building in a Social Context」(Frame Publishers)を出版。