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Kazumi Hirai
平井かずみ / フラワースタイリスト 写真家・平野太呂さんの感性とシンクロするさまざまなクリエイターに密着する連載コラム「LIFE NOTES」。
第四回目は、フラワースタイリストとして活躍中の平井かずみさんをゲストにお迎えします。 -
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*掲載している商品の価格は、すべて本体のみ(税抜)です。
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平野太呂(以下H):僕の妻が、平井さんと一緒に食事をしたことがあるらしく、お話は聞いていたので、やっとお会いできてよかったです。
平井かずみ(以下K):そうなんですか! あの、奥様って……。
H:代々木上原でギャラリーをやっています。
K:あぁ! ご一緒しました! 今やっと繋がりました。
H:よかった! 今日は、市場に連れて行ってもらいましたけれど、普段から花材を仕入れに行っているんですか?
K:私はいつも、那須の有機栽培の農家さんから花材を届けてもらっています。ただ、そのときどきの季節のお花が届くので、撮影の都合などで少し先の季節の花材が欲しい際には市場に仕入れに行くんです。あとは雑誌などでの連載ページや自分の本を作るときには、読んでくれた人が手にとりやすい花材を使いたいと思っていますので、お花屋さんで手に入れやすい花を探しに市場へ出かけたりします。
H:今日のようなファッションで行くことは多いんですか?
K:そうですね。仕事の服装は、白っぽいものを着ることが多いです。お花が映えるように……という思いで、自分がレフ板やキャンパスになっているような。
H:なるほど。着ていたストーンカラーのニットベストもお似合いですね。
K:ありがとうございます。ニットも、今日のようなプリーツスカートも大好きで、普段もこのようなスタイルです。昔からマーガレット・ハウエルの服を良く着ていて、自由が丘店も近いので、今でも覗いたりしているんですよ。
H:たしかに、この「cafeイカニカ」から自由が丘駅に行く途中にマーガレット・ハウエルがありますよね。
K:そうなんです。マーガレット・ハウエルは20代のときから憧れのブランドでした。最初に買ったのはスカーフだと思います。会社に素敵な先輩がいて、その人がマーガレット・ハウエルのスカーフを着けていたんです。それに魅かれて真似させてもらったのがきっかけです。雑誌に出させてもらうようになった当初、「私服を紹介する」という企画を受けたときには、よく自由が丘店のスタッフの方に相談していました。
H:安心できる、というイメージがあったんでしょうか。
K:まさにそう。ずっと寄り添ってきてもらったブランドです。40代に入ってからは、色はベーシックでも、ちょっとフリルがついたものとかアクセントがついているものに目が止まるようになりました。今日のコートも、バックスタイルやベルトがアクセントになっていて素敵。これを羽織って、颯爽と歩きたいですね。それから扱っている雑貨類も好きで、花のスタイリングにも合う野田琺瑯のタッパや今日使ったようなガラスの器を探しに行ったりもしています。YOKO YAMANO TALL BOTTLE ¥17,000 BOWL M ¥18,000 BOWL S ¥17,000
NICOLA TASSIE JUG ¥25,000*掲載している商品の価格は、すべて本体のみ(税抜)です。
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SHIRT ¥27,000 KNIT ¥30,000 SKIRT ¥53,000 TIGHTS ¥4,700
*掲載している商品の価格は、すべて本体のみ(税抜)です。
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NICOLA TASSIE JUG ¥25,000(EACH)
YOKO YAMANO TALL BOTTLE ¥17,000 BOWL M ¥18,000 BOWL S ¥17,000
KEIKO HASEGAWA JUG ¥55,000*掲載している商品の価格は、すべて本体のみ(税抜)です。
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K:平野さんのギャラリーは、いつからあるんですか?
H:ギャラリーは、2004年から。僕の事務所の下をギャラリーにしているんです。この「cafeイカニカ」は、ご夫婦でやっている場所なんですか?
K:そうなんです。2009年に、オープンしました。私はここで「花の会」を始めて、カフェの方は基本的に主人の運営です。最初は、アトリエとして物件を探していてこの場所に出会い、大家さんと相談して、カフェをやらせてもらうようになりました。仲間のみんなで内装に手を入れて、一緒に壁を塗ったりして楽しかったな。
H:ここができる前からお花はやっているんですよね?
K:花の仕事は31歳のときに始めました。新卒で普通の会社に就職をして、そこを辞めて「タイム&スタイル」というインテリアショップの立ち上げのスタッフとなり、そこから花の仕事を。
H:へぇ! 色々やられていたんですね。今はどういうお仕事が多いんですか?
K:月の半分は、「花の会」をはじめとする教室です。ここ「cafe イカニカ」で月に10日くらい。別の場所へ出張することもあります。あとは、雑誌の連載とラジオですね。FM横浜の番組で、毎週水曜日にコーナーを持たせていただいています。季節にまつわる花の話や暮らし周りのことなどを中心にお話ししているのですが、2年前からはそれまでパーソナリティーの方とやり取りをしていた内容から、一人語りをさせていただくことになったのを機に、ゲストをお招きすることになったんです。月の半分は自分の話、あとの半分はゲストの話、ということにしています。平野さんも、いらしてくださいね!
H:ぜひぜひ! お花の教室も、お話から始まるんでしょうか?
K:実は、二時間の教室で、一時間くらいおしゃべりしちゃうんです。花って、ずっと触っていたら傷んじゃうし、いじくりまわすものではないので、その時々の季節のことや器のお話をして、感じたことをその場で感じたままにパッと生けてもらうのが良いと思っています。
H:楽しそうな会ですね。具体的にはどんなことを教えているんですか?
K:生け方っていうよりは…、私自身、「今は何の花が咲いているか」ということを知るだけで、幸せになるんですよ。「ジャスミンの香りがしてきたな」とか、「金木犀が香ってきたからいよいよ秋だな」とか。
H:わかるかもしれない。金木犀の香りに一番に気がつきたい! って思ったりします。
K:そうそう。それを感じる気持ちがあるって、何にも通じる大事なことだと思うんです。だからその、「ちゃんと受け取れる心」を持ってほしいっていうのが一番の願いですね。花を生けるっていうのはそのきっかけのひとつ。「花の会」でお話することのひとつに、草花の背景のことがあります。例えば、花の原産国を知ると、どんな環境で育ってきたか知ることができるので、その花の育て方がわかる。気候や風土がわかるから、「水やりをいっぱいした方がいいのかな」とか、「日当たりが大事なのかな」とか。まずは知識として、図鑑を眺めて暗記しなくても、原産国を知るだけで自分のなかでいろんなイメージが湧くでしょう? そうやって草花と付き合ってもらうと、「意外と難しくないな」って思ってもらえると思うんです。
H:そういうお話をしているんですね。
K:そう。あとはいつも「窓の外の景色をそのまま家の中に取り入れましょう」ってお話していますね。このカフェの窓から中庭が見えるのもすごく良いんですよ。春の初めはまだ緑も若くて、草花の背丈も低いでしょう。だから、生ける器も背の低い器から生け始めるの。季節が巡れば植物の背も高くなっていくから、器もだんだん大きくしていく。「この花本来の咲き方ってどうだったかな」ということを考えるだけで、生け方はすごく簡単になると思うんです。想像力って大切ですよね。
COAT ¥110,000 SHIRT ¥32,000 SKIRT ¥37,000 SCARF ¥21,000 TIGHTS ¥4,700 BOOTS ¥120,000
*掲載している商品の価格は、すべて本体のみ(税抜)です。
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H:教えていて、「この人にはもう教えることは何もないな」って思うことはあるんですか?
K:まだそこにたどり着いた人はいないっていうか……、「私の好きな花のことを一緒に楽しんでもらう会」というつもりで初めているから、技術を磨かせたいっていうのがあんまりなかったんです。「花の会」を始めた当初は、私も未熟でしたが、長く続けてくれている生徒さんもいると、「うまくしてあげたいな」と思うようにはなりました。だから最初の頃の教え方と、今の教え方っていうのは結構違うと思います。でもいつも初回の生徒さんには、「今生けたこの花を忘れないでね」って伝えています。
H:最初の感性が、大事なんですね。
K:例えば、綺麗にきちっとしている花が生けてあるんだけど、整いすぎているものって、「あー、きれいね」って言いながらも通りすぎちゃうと思うんですけれど、ちょっと気になったり、面白かったりすると足を止めたりするでしょ。足を止めるってことは、記憶にも残るし、会話のきっかけにもなる。ディスプレイの仕事をいただくときって、そういうことを考えたりしています。だから、「うまく生ける」というよりも、「記憶に残る花を生ける」というのが目指すところですよね。写真もそうじゃないですか?
H:そうですね。正解がないというところでは、似ているところがあるかもしれない。その人がこれまで吸収してきたセンスが現れるのは、写真も、お花も同じなんだなと思いました。ただ綺麗なだけじゃ、「きれいだね」で終わるけど、少しアクが残っていた方が面白いなって思う。クラシックな“生け花”についてはどう思っているんですか?
K:私自身、高校生のときから生け花を習っていました。でも実際暮らしに取り入れるってなると、どこか仰々しく感じてしまう部分があったんです。暮らしの花って本来、庭や道端に生えているものを摘んできて生ければ良いものだと思うから、今はもっと気軽に花を楽しみたいと思っています。
H:なるほど。
K:でも20代の頃、はじめてフランスに行ったときに、地元の人に「フランスのフラワーアレンジメントってすごく良いね、いつか習いたい!」って言ったんですよ。そうしたら、「何言ってるの、日本には生け花という素晴らしい文化があるでしょ? アレンジメントは元々そこから来ているんだから、あなたはそこをまず学ぶべきだと思う。わざわざフランスまできて習う必要ない」って言われて。そこで“生け花”という日本文化の素晴らしさを改めて感じさせられましたね。
H:今の平井さんの基盤になっているのかもしれないですね。ところで、気になっていたのですが、このカゴバッグは昔から使っているものなんですか?
K:そう! これは、マーガレット・ハウエルのもので、10年くらい前に買ってから大切に使っています。
H:すごい、良い色になってきていますね。
K:気に入ったものは長く使い続けたいと思います。マーガレットさんは、やっぱり憧れの人。実際の暮らしぶりを想像すると、どこか力が抜けていそうなところもあって、素のままの部分を大切にしている印象があります。だから、花でも原種のものに魅力を感じていた私としては、親近感を感じるんですよ。あと物の背景を大切にしているところも素敵。私も「花の会」では、器の時代背景を説明するようにしています。暮らしの中にあるもの全てが花器になると思っていて、例えば今日用いたピッチャーや浅い鉢も、花を生ければ花器になる。器使いも花生けの楽しみのひとつですからね。
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平井かずみ フラワースタイリスト
Kazumi Hirai / Flower Stylist
1971年生まれ。草花がもっと身近に感じられるような「日常花」の提案をしている。東京・自由が丘の「café イカニカ」を拠点に、「花の会」や「リース教室」を開催。また、雑誌でのスタイリングのほか、ラジオ番組に出演中。著書には「フラワースタリングブック」(河出書房新社)、「ブーケとリース」(主婦と友社)、「あなたの暮らしに似合う花」(地球丸 天然生活ブックス)他多数。TEXT
平野太呂 写真家
Taro Hirano / Photographer
1973年生まれ。武蔵野美術大学映像学科卒。2000 年よりフリーランスとして活動を開始。スケートボードカルチャーを基盤にしながらも、カルチャー誌やファッション誌や広告などで活動中。主な著書に『POOL』(リトルモア)『ばらばら』(星野源と共著/リトルモア)『東京の仕事場』(マガジンハウス)、フォトエッセイ『ボクと先輩』(晶文社)、『Los Angeles Car Club』(私家版)、『The Kings』(ELVIS PRESS)がある。東京都渋谷区上原にて2004年からNO.12 GALLERYを主宰している。