神南店イベントレポート

神南店イベントレポート

16 NOVEMBER, 2018

11月3日の文化の日にふさわしく、神南店では
森岡書店の森岡督行氏と
代官山蔦屋書店の三條陽平氏をお招きし
本にまつわるトークイベントを開催。

まず、店内に並ぶ書籍の中から
マーガレット・ハウエルらしいと感じる
1冊を選んでいただきました。

三條「『モダンオリジナル』は、マーガレット・ハウエルの世界観にしっくりくるなという印象があります。この本はいろんな建築家やデザイナーの自邸を撮った写真集です。自邸というのは、彼らが数々の建築作品を手がけている中で、彼らの理想に一番近いものなのではないかと言われ、注目されています。例えば、コンクリートしか扱わない建築家が、自邸では木材を使って生活に合わせた家を建てていたりするなど、普段では見えないパーソナリティの部分が見えてくる。そんなライフスタイルに沿った部分がマーガレット・ハウエルに通じるところかなと思いました。」

森岡「私が選んだ1冊は『ファインディング ブルータリズム』という本です。これはコンクリートの打ちっ放し建築の写真集で、装飾がほとんどない建築がたくさん載っている。ブルータリズムというのはイギリスの第二次世界大戦後の建築の一様式で、その言葉の意味の一つに「装飾を排除した」というものがあります。マーガレット・ハウエルの洋服のデザインも、削ぎ落とされた美意識というものに通底するものがあるなと思い選びました。」

かたや、三條氏にとって
『ファインディングブルータリズム』を
マーガレット・ハウエルが選んだというのが
意外だったと言う。

三條「鉄筋コンクリートという技術ができ始めた頃は、コンクリートの表面仕上げの技術もなく、木造の型枠を使い、その木目がコンクリートに出てすごくザラザラした表面なんです。ブルータリズムには「野獣的な」という意味もあり、その野獣的な印象とマーガレット・ハウエルが僕の中ではあまり結びつきませんでした。」

森岡「東京の街はコンクリートジャングルと言われ、近代的なイメージがありますよね。三田に『蟻鱒鳶ル(アリマストンビル)』という、岡啓輔さんという方が12年もの歳月をかけて一人で手作りしたビルがあるのですが、先日その岡さんから、コンクリートというのは2000年前からの技術だと教えてもらいました。それなら、コンクリートというのは私たちが思っているよりも天然由来のものなんじゃないですかと尋ねたら、その通りだとおっしゃったんです。私たちはコンクリートに囲まれて生活しているから、なんとなく自然がなくなったと思っていますが、天然由来のものが変化してこのような形になっていると考えると、東京や世界の都市が自然の岩場が広がっているようなイメージとして見えるようになりました。そして、マーガレット・ハウエルさんも、もしかしたら同じようなことを考えたのではないかと思いました。自然に対してとても親しみを持っている彼女にとって、コンクリートも2000年前からある自然の一部なんじゃないかなと。私の妄想ですが(笑)。」

三條「なるほど!それは、ブルータリズムの教科書には載っていないですね。」

マーガレットがよく使う「モダン」という言葉。
建築においてイメージするモダンさとは?

三條「教科書的な話をすると、豪奢な様式美から脱するためにモダニズムという文化が現れて、建築家ではル・コルビジェが、曲線や装飾的だったものを水平垂直で表して、巷に溢れている近代建築を形成しています。それでいうと、やっぱりモダンさは“シンプル”。装飾を外していくという考え方だと思います。マーガレット・ハウエルさんがおっしゃっているのも、そんなモダンさなんじゃないかなと。」

森岡「モダンという考え方は国によっても違うと思うのですが、いずれにしてもモダンというのは、伝統というものがないと成り立たないのではないかなという気がしています。モダンがあるのであれば、伝統もあるだろうと。マーガレット・ハウエルさんのモダンさを考えるとするならば、イギリスの伝統ってなんだろうというのを踏まえながら彼女のデザインを見ると、モダンを語ることができるだろうという風に思います。」

最後に、お二人に持ってきていただいた
マーガレット・ハウエルに合うと思う本を
紹介をしていただきました。

三條氏に披露していただいたのは
NYのガゴシアンギャラリーが
定期的に出している『ガゴシアン』、
写真のみで構成されたスポーツ誌『ビクトリー』、
さらに、『スペースマガジン』の3誌。

三條「『スペースマガジン』は、いろんな人のお家にお邪魔してインタビューをしていくというインテリア雑誌です。これもただインテリアを撮るだけでなくて、そこに住んでいる人の居住まいだったり、住み手のアイデンティティまで掘り下げていて、その人の使いやすい空間、その人がどういう風に住んでいるのか、その人なりの生活感が現れていてながらも、ひとつの美意識で統一されている。そういうものがすごくいいですね。」

そして、森岡氏のおすすめの1冊は
ブルーノタウトの『日本』の昭和11年版。

「ブルーノタウトは桂離宮を見出した建築家として知られていて、この本を読むと至るところに書いてあるのが、日本には2つ美のあり方があるということ。1つは、盛って盛って、装飾で飾っていく、日光東照宮のような美のあり方。もう1つは、引いて引いて、本質を見い出すという、桂離宮のような建築のあり方。マーガレット・ハウエルのものづくりはどちらかというと、引いて引いて、本質を見い出すという、桂離宮の考え方に非常に近いのではないかと思うんです。そういう観点からこの本を選びました。」

興味の尽きないお二人のトークイベントは
2回とも盛況のうちに終了しました。

彼女が生活してきた中で慣れ親しんできた
イギリス人のデザイナーによるプロダクトと
それらに通ずる書籍が
彼女自身のストーリーや表現したいライフスタイル
を伝える一部となっています。

そんなマーガレット・ハウエルを語る上で
欠かせない様々な本を
ぜひ、神南店でご覧ください。

 

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