●SPRING SUMMER 2006 - January
Span Housing
Margaret Howell exhibition notes
マーガレット・ハウエルは2004年より「オープンハウス ロンドン」* のスポンサーの一員となっています。彼女の考えとして単なる金銭的サポートだけに留まらず、自らも関連したイベントを行うことでその存在を広めることにも努めています。2005年は「スパン」の住宅をブリティッシュデザインの傑作の一例としてテーマに掲げ、ウィグモアストリートのフラッグシップショップで約3週間の展示を行いました。
「ここ30年間私はブラックヒース周辺に住んでおり、スパン デベロップメントがその魅力を増していくのを見てきました。建物との調和を考えてデザインされた景観が年月と共に成熟しても、クリーンなラインから成る住居の新鮮さ、モダンさが失われることはありません。建築家であるエリック・ライアンズ*のスパンに対するコンセプト <建築家がそれぞれ一軒毎にデザインした家と集合住宅の開発を文字通り『結びつける(span = 橋を渡す)』> は当時も触発的でしたが、今でも現代的な暮らし方の正解であり続けています。」
スパン開発社 (Span Developments Ltd) は1948年から1984年の間にライアンズのデザインにより30箇所の住宅団地建設を投機的に行い、11の住宅に関する賞を受賞している。規模的には、ブラックヒース、フォックシズ デイルの3軒からケント州のニューアッシュグリーンという新たなビレッジの500軒まで多岐に渡るが大半は15-50軒のユニットであった。
スパン ハウジングはエリック・ライアンズと彼の建築家仲間のジェフリー・タウンゼントのクリエーションである。二人は専門学校の学生時代に出会い、共にモダン建築に対して強い興味を示し、1938年に共同で事務所を起こした。
おりしも、第二次大戦後のイギリスでは新しい住宅の必要性が差し迫っていたことから、彼らは自分たちのアイディアを試す機会に恵まれた。建設ラッシュにも関わらず民営住宅の多くは戦前のスタイルに倣った変わりばえのしないもので、公営住宅は住民個々のニーズなど考慮されていないであろう実用性一点張りの区画を度々生み出した。そんな中ライアンズとタウンゼントは巧みに設計されたモダンな家をデザインし、同等に緻密にプランされた景観に置くことで暮らしの質の向上に貢献できると感じていた。そしてより広いマーケットに進出するためには自ら投機的な住宅建設と、販売を手がけることが唯一の方法であるということを見出すと、思い切ってタウンゼントは1953年に王立建築家協会(Royal Insutitute of British Architects = RIBA)を脱退してデベロッパーとなり、(注:会員はデベロッパーになることを許されていなかった)一方のライアンズは建築家としての立場を維持して、共同でスパン開発社を設立、1957年に登記された。
戦後から10年の間には希望的観測と新しいライフスタイルへの欲求が生まれていたが、英国民は未だモダン建築に対して消極的で、戦前の様式にこだわっていた。エリック・ライアンズの家は一切の妥協なしにモダンで、フラットな屋根、大きな窓と簡素なファサードを用い、どちらかというと抽象画のようなコンポジションでデザインされていた。
スパン ハウスの集合住宅はどれも独特の景観を持ち、可能なところでは育った木をそのまま生かし、建物本体はもちろんのこと、家と家の間のスペースの流れにも同様の配慮がなされている。そうすることによって厳格に捉えられがちな家のデザインを環境が和らげたのである。
インテリアと外装
スパンの典型的なインテリアにはクリーンなライン使いと無駄を省いたディテールによる落ち着きと調和が見られる。経済的な考え方から家は質素なサイズで規格によって建てられていたが、採光とインテリアのシンプルな構成が満足なスペース感を与えていた。
当時としては斬新な、オープンプランのリビングはフレキシブルなライフスタイルを可能にし、リビングルームの両端に配された大きな窓をからは、部屋中に自然光が溢れ、家の中と外の景色が繋がっているかのような視界が広がっていた。
ライアンズの無駄を省いた、しかし実用的なアプローチはより細かなディテールまで明らかに見て取れる。たとえば直線的なベニヤ板のドアにはシンプルなステンレスの建具とスカンジナビア製の取っ手を組み合わせ、床暖房によって壁をすっきりさせた。しかしそこに加えられた、剥き出しのレンガと木の梁のニュアンスが伝統との心地よい融合を実現しているのだが、全体としては新鮮でモダンな感覚を与えており、新しく手に入れた人に先駆者のような気分を味あわせた。
外装を完璧にデザインし、厳格にそれを維持することで集合住宅としての一体感を実現しており、すべてのデザインがシンプルで機能的で時代を超える魅力を持っている。これらのこだわりによってスパンの集合住宅は独特なその土地の景観と交わった確固たる美しさを見せている。
スパンの遺産
時がライアンズの主義の永続性を証明している。ほぼ50年が経過しても彼の家は今でもグッドルッキングで、景観に溶け込んで彼が意図したそのままの方法で使われ、楽しまれている。オーナーによる管理組合も本来の姿を維持するための責任を担い、努力を続けている。
「ブラックヒースのコーナーグリーンの団地の周辺を最近サイクリングした時に、静かな平穏と共有ガーデンの成熟した木の下で2人の少女が遊んでいるのに心を打たれました。そのときエキシビションに展示されているRIBA所蔵の1960年代のオリジナル写真を見ているような気持ちがしました。」
- *オープンハウス Open House
- イギリス国内の優れた建築デザインを紹介することを目的とした教育的慈善事業。子供たちへの啓蒙活動から、レクチャー、見学ツアーなどを随時行っているほか、毎年9月の週末2日間にロンドン市内の優れた建築物を一般公開する「オープンハウス ロンドン」も運営。現在では公開される建物が600軒を超え、一部では長蛇の列ができる程の人気イベントとなっている。
- *エリック・ライアンズ Eric Lyons
- 1912-1980 イギリス生まれの建築家。革新的で優れたデザイン住宅の普及に努めたことで知られ、18の賞を受賞。スパン ハウジングは代表作の1つとして挙げられる。1970年代には王立建築家協会の会長を務め、没後は若手建築家育成を目的としたエリック・ライアンズ基金にもその名を残している。